[監査]

○公表


監査公表第473号
 地方自治法第199条第4項の規定による監査を実施し,同条第9項の規定により監査の結果に関する報告を決定したので,同項の規定により,次のとおり公表します。
  平成14年11月20日
京都市監査委員 高橋 泰一朗
同      宮本 徹
同     下薗 俊喜
同      奥谷 晟



平成14年度定期監査(工事)結果公表
 監査の種類 定期監査(工事)
 監査の対象 都市計画局及び建設局
 監査の実施期間 平成14年6月から同年11月まで
 監査の範囲,方法及び結果
第1 都市計画局
 監査の範囲及び方法
 平成13年度及び平成12年度以前から繰越又は継続施行をしている別表第1に掲げる工事及び別表第2に掲げる工事に関連する設計業務委託及び工事監理業務委託を対象とした。
 設計事務,施工管理等について関係図書を審査し,文書及び口頭による質問調査を行い,必要なものについて実地調査を行った。
 監査の結果
 監査の結果,工事,設計業務委託及び維持管理業務委託は,おおむね適正に処理されていると認めたが,一部に次のような事項があった。
(1)改善又は検討を必要とするものは,次のとおりである。
 現場管理費の算定については,新営工事と改修工事を同一工事で発注する場合は,両工事の純工事費の合計額に対するそれぞれの現場管理費率によることとされているが,適正な現場管理費率で処理していなかった。また設計変更時の契約保証費について,元工事のままとすべきを改めて補正していた。
 適正な積算を行うよう改められたい。
(改進乳児保育所整備工事ただし,空調衛生設備工事)
 工事の施工により隠ぺいされる部分が,設計図書のとおり施工されていないものがあった。
 隠ぺいされる前に検査を行うよう改められたい。
(錦林浴場整備工事ほか)
 検査調書に記載された工事完成検査日が,実際に完成検査を行った日と相違していることが明らかなものがあった。
 適正な処理を行うよう改められたい。
(消防職員待機宿舎西ノ京寮整備工事ほか)
 建築請負工事監督・検査要綱では,中間出来高検査の検査員は局長が認めた工事担当課の課長により行うこととされているが,担当係長により検査をしていた。
 適正な検査を行うよう改められたい。
(北部クリーンセンター建設工事ただし,ごみ処理設備工事)
 特記仕様書で本市が工場立会検査を行った機械部品及び工事材料を部分払いの対象と認めるとして,平成14年4月に部分払いしているが,工程表ではその機械部品及び工事材料は,平成15年11月からの焼却施設工事に使用する部品及び材料である。
 現場に搬入されていない機械部品及び工事材料の担保については不明であった。
 部分払いを行った機械部品等の担保について,早急に検討されたい。
(北部クリーンセンター建設工事ただし,ごみ処理設備工事)
 工事監理業務委託契約約款では,業務の完了を確認するための検査を行うこととされているが,当該検査を完了した場合に作成する検査調書を作成していなかった。
 検査完了後,検査調書を作成するよう改められたい。
(工事監理業務委託共通)
 業務委託契約約款では,業務の完了を検査し,当該検査の結果を通知しなければならないこととされているが,その通知書を作成していなかった。
 検査完了後,通知書を作成するよう改められたい。
(産寧坂伝統的建造物群保存地区防災施設整備工事
設計委託ただし,消火栓設置工事設計委託ほか)
(2)注意を要するものは,次のとおりである。
 工期の短縮を図るため,現場打ちコンクリ−ト雨水排水ます等を既製品雨水排水ます等に変更しているが,既製品雨水排水ます等を使用することにより,工期の短縮及び工事費の削減ができるのであれば,設計段階で考慮されたい。
(小川特別養護老人ホーム(仮称)等新築工事)
 積算関連資料集では,本掛率表は,標準的な工事における掛率を記載するものであり,工期規模等により本掛率表が不適切な場合は,別に定めることができることとされているが,決定書を作成せずに掛率表を変更していた。
 決定書を作成し,変更されたい。
(西京極総合運動公園プール棟他(仮称)
新築工事ただし,空調設備工事)
 積算関連資料集では,材料単価は,機器掛率表等を参考にして,定めることとされているが,その掛率と代価表との掛率が相違しているものがあった。
 適正な積算を行われたい。
(小川特別養護老人ホーム(仮称)・京都市みつば
幼稚園等新築工事ただし,電気設備工事ほか)
 建築工事事務マニュアルでは,設計変更する場合は事前に設計変更・追加工事施工方針決定兼通知書を作成することとされているが,その決定兼通知書を作成していないものがあった。
 設計変更時には,決定兼通知書を作成されたい。
(高野老人デイサービスセンター(仮称)等
新築工事ただし,空調衛生設備工事ほか)
 特記仕様書では,施工計画書の提出を求めており,特に品質計画は,監督員の承諾を受けることとされているが,承諾印等がなく,承諾行為が不明なものがあった。
 承諾を的確に行われたい。
(小川特別養護老人ホーム(仮称)等新築工事ほか)
 特記仕様書では,コンクリート強度は,打設する月に応じた呼び強度のコンクリートを打設することとされているが,打設する月の呼び強度のコンクリートを打設していなかった。
 適正な施工を行われたい。
(消防職員待機宿舎西ノ京寮整備工事)
 受注工事に係る建設業退職金共済制度の取扱いについてでは,受注した本市工事において,下請業者等も含めて対象労働者を採用しない場合,共済証紙を購入しない理由を不提出理由書に記載して提出することとされているが,適正な書式で提出していなかった。
 適正な書式を確認のうえ処理されたい。
(北部クリーンセンター建設工事ただし,ごみ処理設備工事)
 建築工事事務マニュアルでは,工事完成時に図面及び施設台帳を整備しデ−タ管理担当課に引き渡すこととされているが,その整備をしていないものがあった。
 図面及び施設台帳を整備されたい。
(高野老人デイサービスセンター(仮称)等
新築工事ただし,空調衛生設備工事ほか)
 建築工事事務マニュアルでは,中間出来高査定方法は,種目内訳書により設計出来高金額を査定し,部分出来高調書により中間支払額を決定することとされているが,適正な設計出来高金額の査定方法で処理をしていなかった。
 適正な査定処理を行われたい。
(太秦知的障害者福祉センター(仮称)
新築工事ただし,電気設備工事)
第2 建設局
 監査の範囲及び方法
 平成13年度及び平成12年度以前から繰越又は継続施行をしている別表第3に掲げる工事を対象とした。
 設計事務,施工管理等について関係図書を審査し,文書及び口頭による質問調査を行った。
 監査の結果
 監査の結果,工事は,おおむね適正に処理されていると認めたが,一部に次のような事項があった。
(1)改善又は検討を必要とするものは,次のとおりである。
 工事請負契約約款では,工期及び請負代金の変更を行う場合,甲乙協議して定めることとされているが,その協議内容について書面を作成していなかった。
 設計変更の協議に当たり,書面を作成するよう改められたい。
(洛北第二地区都市計画道路21・4号線街路造成工事ほか)
 側溝工について,側溝本体は鉄筋構造物としてコンクリートの呼び強度18N/平方ミリメートルを使用しているものがあったが,現在その使用基準は変更されている。
 鉄筋コンクリート構造物は,現在の基準に適応するよう検討されたい。
(伏見西部第四地区区画道路8号線他街路築造工事ほか)
(2)注意を要するものは,次のとおりである。
 設計計上数量の端数処理については,土木工事標準積算基準書における数値基準に基づいて四捨五入することとされているが,これに従った端数処理をしていないものがあった。
 適正な積算を行われたい。
(鴨川堤防設置工事ほか)
 受注工事に係る建設業退職金共済制度の取扱いについてでは,受注した本市工事において,下請業者等も含めて対象労働者を採用しない場合,共済証紙を購入しない理由を不提出理由書に記載して提出することとされているが,適正な内容で提出していないものがあった。
 適正な記載内容であるか確認のうえ処理されたい。
(大宮通橋梁整備(その2)工事ほか)
 労働者災害補償保険法の規定では,請負人は,雇用者等の雇用形態に応じ,雇用者等を被保険者とする保険に加入することが義務付けられているが,請負人が労働者災害補償保険に加入していなかった。
 建設工事では,労働者災害補償保険に加入するよう指導されたい。
(大宮通橋梁整備(その2)工事)
 土木工事共通仕様書では,請負人は,建設業退職金共済組合に加入し,その掛金収納書を契約後1箇月以内に提出することとされているが,その提出を遅延しているものがあった。
 建設業退職金共済組合の掛金収納書を期限内に提出するよう指導されたい。
(二条駅西通他植栽工事ほか)
 土木工事共通仕様書では,請負人は,工事の受注後,変更後及び完成後それぞれ10日以内に「工事カルテ」を作成し,財団法人日本建設情報総合センターに登録することとされているが,その登録を遅延しているものがあった。
 工事カルテの登録を期限内に行うよう指導されたい。
(広路4号油小路通他街路造成工事ほか)
 工事請負契約約款では,請負人は工事完成後速やかに引渡書を提出することとされているが,提出していなかった。
 請負人に速やかに提出するよう指導されたい。
(大宮通橋梁整備(その2)工事)



別表第1 工事
別表第2 1 設計業務委託 2監理業務委託
別表第3 工事


(監査事務局第一課)

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監査公表第474号


京都市職員措置請求及び監査結果公表
 地方自治法第242条第4項の規定により,標記の請求に係る監査を行ったので,請求文及び請求人に対する監査結果の通知文を次のとおり公表します。
  平成14年11月21日
京都市監査委員 高橋 泰一朗
同      宮本 徹
同     下薗 俊喜
同      奥谷 晟



 京都市職員措置請求書

京都市職員措置請求書
2002年9月20日
京都市監査委員 様
請求人
(住所)京都市右京区花園寺ノ内町1番地18
(氏名)牧野 憲彰
(職業)自営業
〔請求の要旨〕
(1)京都市は1984年度より,同和奨学金(地域改善対策奨学金及び就学奨励金)貸与者の貸与終了後からはじまる奨学金の返済を肩代わりしている。これは「自立促進援助金支給要綱」にもとづくもので,「同和関係者の子弟の自立を促進するため」(第1条),「その属する世帯の所得,就労等の生活実態から貸与を受けた奨学金等を返還することが困難であると市長が認めたものに対し,支給する」(第2条)という制度である。支給額は1997〜2001年度の5年間だけで7億2796万5395円にのぼる。
(2)ところが,同制度を所管する京都市文化市民局市民生活部人権文化推進課の説明によると,同和奨学金を自己返済しているケースは1例もない。つまり,同和奨学金貸与者全員(あらかじめ国の規定により同和奨学金返済を免除されたものをのぞく)にたいして,自立促進援助金を支給(つまり肩代わり)しているのである。
(3)また,人権文化推進課の説明によると,同制度の申し込みを同和奨学金貸与者から受け付ける際,貸与者やその属する世帯が返済困難であることを証明する所得や健康状態などに関わる書類の提出を求めておらず,同和奨学金担当市職員の面接による状況確認だけで,市長は同制度の適用を決めている。さらに,同和奨学金の返済は最長20年分割でおこなわれるが,市長は返済初年度に自立促進援助金の支給を決定すると,以後20年間,いっさい審査することなく支給を継続している。
(4)以上の実態は,同制度の目的に反する違法な公金支出である。よって,監査委員において厳正な監査を実施され,違法な支給を決定した桝本頼兼京都市長他関係職員に,最近5年間の支給総額7億2796万5395円を京都市に返還させるよう必要な措置をとることを求める。なお,本件請求は,当該公金支出行為から1年経過したものも含まれるが,市民が客観的に知り得なかったものであるから本請求には正当な理由がある。
注1 事実証明書の記載を省略した。
注2 平成14年10月7日付けで,次の内容が記載された補正文が提出された。次の【1】の〈 〉内の記述は,補正の趣旨が明確になるよう,監査委員において補った。

【1】「補正について」の1について

 〈請求書にある平成9年度から同13年度までの間における自立促進援助金の支給に係る財務会計行為が行われた日,当該財務会計行為により支出決定された金額及び支出された金額並びに当該財務会計行為が行われたことを知った日及び知った方法は〉いずれについてもわかりません。監査においてお調べいただきたいと思います。

【2】「補正について」の2について

 本請求人は,いずれについても京都市人権文化推進課より直接の説明は受けていません。請求書の「請求の要旨」(2)(3)で記述した内容はすべて,請求書に添付した資料3)の雑誌記事に依拠したものです。

【3】「補正について」の3について

(1)返還請求を行う者は,京都市です。

(2)返還請求の相手方は,桝本頼兼さん及び本請求で問題にしている期間の自立促進援助金の支出の決定に関与した幹部職員(氏名・役職・人数は不明=これも監査にてお調べいただきたいと思います)です。相手方ごとの返還請求金額はわかりません。



請求人に対する監査結果通知文
監第84号
平成14年11月18日

請求人 牧野 憲彰 様
京都市監査委員 高橋 泰一朗
同      宮本 徹
同     下薗 俊喜
同      奥谷 晟




京都市職員措置請求に係る監査の結果について(通知)
 平成14年9月20日付けで提出された地方自治法(以下「法」という。)第242条第1項の規定に基づく京都市職員措置請求について,監査した結果を同条第4項の規定により通知します。
第1 請求の受理
 1 請求の要旨
(1) 京都市(以下「市」という。)は昭和59年度から,同和奨学金(京都市地域改善対策奨学金及び京都市地域改善対策就学奨励金)貸与者の貸与終了後から始まる奨学金の返済を肩代わりしている。これは「自立促進援助金支給要綱」(以下「支給要綱」という。)に基づくもので,「同和関係者の子弟の自立を促進するため」(第1条),「その属する世帯の所得,就労等の生活実態から貸与を受けた奨学金等を返還することが困難であると市長が認めたものに対し,支給する」(第2条)という制度である。支給額は平成9年度から平成13年度までの5年間だけで7億2,796万5,395円に上る。
(2) ところが,同制度を所管する京都市文化市民局市民生活部人権文化推進課(以下「人権文化推進課」という。)の説明によると,同和奨学金を自己返済しているケースは1例もない。つまり,同和奨学金貸与者全員(あらかじめ国の規定により同和奨学金の返済を免除されたものを除く。)に対して,自立促進援助金(以下「援助金」という。)を支給(つまり肩代わり)しているのである。
(3) また,人権文化推進課の説明によると,同制度の申込みを同和奨学金貸与者から受け付ける際,貸与者やその属する世帯が返済困難であることを証明する所得や健康状態などに関わる書類の提出を求めておらず,同和奨学金担当市職員の面接による状況確認だけで,京都市長(以下「市長」という。)は同制度の適用を決めている。更に,同和奨学金の返済は最長20年分割で行われるが,市長は返済初年度に援助金の支給を決定すると,以後20年間,一切審査することなく支給を継続している。
(4) 以上の実態は,同制度の目的に反する違法な公金支出である。よって,監査委員において厳正な監査を実施され,違法な支給を決定した市長他関係職員に,最近5年間の支給総額7億2,796万5,395円を市に返還させるよう必要な措置を採ることを求める。
 なお,本件請求は,当該公金支出行為から1年を経過したものも含まれるが,市民が客観的に知り得なかったものであるから本請求には正当な理由がある。
 2 要件の審査
(1) 請求人は,本件請求の根拠とする条項を明示していないが,請求の内容から法第242条第1項の規定に基づく請求と判断する。
(2) 本件請求は,平成9年度から平成13年度までの5年間に支出された援助金を対象としてなされたものである。
 経費支出決定書(平成9年度及び平成10年度については,支出命令書)によれば,平成9年度の援助金は平成10年3月27日に,平成10年度の援助金は平成11年3月26日に,平成11年度の援助金は平成12年3月24日に,平成12年度の援助金は平成13年3月22日に,そして平成13年度の援助金は平成14年3月18日にそれぞれ支出決定が行われており,平成13年度の援助金に係るものを除き,いずれも支出決定が行われた日から1年以上を経過して監査請求がされている。
 法第242条第2項は,「前項の規定による請求は,当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過したときは,これをすることができない。ただし,正当な理由があるときは,この限りでない」と規定しているが,請求人は,市民が客観的に知り得なかったものであるから本請求には正当な理由があるとして,法第242条第2項ただし書の適用がされるべきであると主張している。
 法第242条第2項ただし書に規定する「正当な理由」があるかどうかについては,特段の事情のない限り,当該行為が秘密裡にされた場合には,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか,また当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきであり(最高裁昭和63年4月22日判決),また当該行為が秘密裡にされなかったとしても,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合には,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきであるとされている(最高裁平成14年9月12日判決)。
 援助金については,毎年度,京都市一般会計予算に計上され,当該予算から執行されており,本来の支出科目以外の科目から支出するような行為或いは実質的には違法,不正な支出でありながら外観上は通常正規の財務会計上の支出行為の形式を採り,その事実をことさら隠ぺいするような行為は行われていないことから,当該行為が秘密裡にされていたと認めることはできない。
 また,援助金については,平成10年5月京都市会(以下「市会」という。)の本会議(平成10年5月13日),平成11年2月市会の本会議(平成11年2月25日)及び平成13年5月市会の本会議(平成13年5月18日)において,請求人が本件請求の要旨で述べている事項の一部と同趣旨の事項が取り上げられて質疑が行われ,また平成13年2月市会の普通予算特別委員会(平成13年3月14日),平成13年5月市会の文教委員会(平成13年5月22日)及び平成13年11月市会の本会議(平成13年12月18日)においては,今後の在り方について質疑や討論が行われている。これらの質疑や討論の記録は,京都市会図書室(以下「市会図書室」という。)において,一般の閲覧に供されている。
 更に,援助金については,京都市内の書店を中心に販売されている月刊誌「ねっとわーく京都 1999年5月号(1999年5月1日発行)」にも,本件請求の要旨とほぼ同趣旨の記事が掲載されている。
 これらのことから,請求人が相当の注意力をもって調査を尽くせば,客観的に見て監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができたと言うべきである。
 したがって,本件請求のうち,平成9年度から平成12年度までに支出決定された援助金を対象とした部分については,支出決定のあった日から1年以上を経過して監査請求を行ったことについて正当な理由があるとは認められず,法第242条第2項の規定に適合していないので,これを却下し,平成14年3月18日に支出決定された平成13年度の援助金について監査を実施する。
第2 監査の実施
 1 監査の期間中,文化市民局関係職員(コミュニティセンター(旧隣保館)職員を含む。)に対し,関係書類の提出及び説明を求めた。
 2 法第242条第6項の規定に基づき,請求人に対し証拠の提出及び陳述の機会を与えたところ,請求人から新たな証拠の提出及び陳述は行わない旨の内容を記した文書の提出があった。
第3 監査の結果
 1 事実関係
(1) 市においては,昭和26年のオールロマンス事件を契機として,昭和27年に策定された「今後における同和施策運営要綱」(以下「運営要綱」という。)により,同和問題の解決が市政の最重点課題の一つに位置付けられ,同和地区の住環境と同和地区住民の生活実態の改善に本格的に取り組まれるようになった。
(2) 教育対策は,昭和27年度に特別就学奨励費を計上して,長期欠席,不就学対策を制度化し,昭和29年度には全市の同和地区において補習教育を実施することとするなど,充実が図られてきた。
(3) 昭和36年度には,当時の民生局の事業として,経済的な理由により高等学校への就学が困難な現状にあることを踏まえ「京都市同和就学奨励資金給付」(以下「奨励資金給付」という。)制度が設けられ,昭和38年度には,就学を奨励するため,高等学校以上の学校に在学するものを対象にした「京都市同和奨学資金給付」(以下「奨学資金給付」という。)制度が設けられた(これに伴い奨励資金給付は廃止された。)。
(4) 昭和38年度には同和教育方針が策定され,「同和地区児童生徒の「学力向上」を至上目標とした実践活動を推進する」ことを最重要課題として,学力向上対策,進路保障対策,保健管理対策の3分野から総合的に取組が始められ,進路保障対策として,奨学金,各種支度金の支給が行われてきた。
(5) 昭和41年度からは高等学校又は高等専門学校(以下「高校等」という。)に在学する者(以下「高校生等」という。)に対する奨学資金給付が国庫補助の対象となり,昭和49年度からは大学(短期大学を含む。以下同じ。)に在学する者(以下「大学生」という。)に対する奨学資金給付についても国庫補助の対象となった。
 昭和57年度には,高校生等を対象とする奨学資金給付制度を「京都市地域改善対策奨学資金」に,大学生を対象とする奨学資金給付制度を「京都市地域改善対策大学奨学金」(以下「大学奨学金」という。)にそれぞれ名称を変更した。
 また,国が昭和57年10月から,昭和57年4月1日以降に入学した大学生を対象とした奨学金に係る国庫補助の対象を,給付制度から貸与制度に変更したことに伴い,市においても昭和58年度から「京都市地域改善対策奨学金」(以下「市奨学金」という。)制度を設け,貸与制度(返還期間20年以内)とし,昭和58年4月1日現在,大学1,2年生として在学している者からこの制度の対象とした。
(6) 援助金は,同和問題の解決を図ることを目的として,市内の同和地区に居住する同和関係者の子弟の自立を促進するため,「京都市地域改善対策奨学金貸与規則」の規定による市奨学金の貸与を受けた者のうち,その属する世帯の所得,就労等の生活実態から貸与を受けた市奨学金を返還することが困難であると市長が認めた者に対し,支給要綱に基づき支給されるものであり,昭和59年4月1日に設けられた。
(7) 法第232条の2には,「普通地方公共団体は,その公益上必要がある場合においては,寄附又は補助をすることができる」と規定されており,援助金は同条に規定する補助に該当する。
(8) 昭和62年度からは,最終の特別法である地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(以下「地対財特法」という。)及び同法施行令が施行された。
 これに伴い,昭和62年4月1日以降に入学した高校生等を対象とした奨学金に係る国庫補助の対象は,昭和62年10月から,給付制度から貸与制度に変更され,市においても昭和63年1月に昭和62年4月にそ及して貸与制度に変更するとともに,大学生を対象とする市奨学金制度と統合した。
 また,国庫補助の対象となっている奨学金について,貸与の対象者に係る収入基準が導入されたことに伴い,これまでと同様に高校等又は大学に進学しようとする者を引き続き支援するため,同時期に「京都市地域改善対策就学奨励金」(以下「就学奨励金」という。)制度が設けられ,昭和62年4月1日以降に入学した者から貸与の対象とされた。
(9) 昭和63年3月31日に支給要綱の改正が行われ,就学奨励金の貸与を受けた者も援助金の支給の対象とすることができるようにされた。
(10) 平成5年7月,市は広く同和施策全般にわたって見直しを行い,「今後の本市における同和対策事業のあり方について(具体的内容)」(以下「あり方」という。)を発表し,主として地対財特法の期限内における取り組むべき方向を示した。このあり方に基づき,平成7年度に就学奨励金制度にも所得基準が導入された。
(11) 平成8年11月に京都市同和問題懇談会から提出された「今後における京都市同和行政の在り方について」の意見具申(以下「市同懇意見具申」という。)においては,就学奨励事業についても一般施策への移行を基本とすべきであるとしながらも,「高校,大学の奨学金に関しては,(中略)大学進学率の格差などに見られるように,同和地区の子供たちの進路実態になお課題がある」として,「直ちに一般施策へ移行することは難しいと考える」としている。
 また,平成14年1月に市が同和問題の早期解決に向けた平成14年度以降の取組の在り方をまとめた「特別施策としての同和対策事業の終結とその後の取組」(以下「終結とその後の取組」という。)は,「同和行政の成果」として,教育及び就労に関し,高校進学率は全市とほぼ格差のない状況となり,大学進学率についても大きく向上したこと,こうした教育保障施策の成果等により,住民の就労状況は,若年層を中心に幅広い分野への進出が見られるようになってきたと述べるとともに,教育に関する残された課題として「過去のおしなべて低位な実態が大きく改善されてきたとはいうものの,(中略)高校進学の内容,高校中退率及び大学進学率の格差などの課題が残されています。更には,ひとり親家庭,経済的支援を受けざるを得ない家庭等,厳しい状況に置かれている家庭もあり,児童,生徒の教育に大きく影響しています」と述べている。
(12) 援助金は,援助金の支給を受ける者がその年度に返還すべき市奨学金又は就学奨励金(以下「奨学金等」という。)の額の範囲内において市長が定める金額が年1回支給されている。
(13) 平成13年度に支出された援助金は2,469人分183,103,695円で,平成14年3月18日に支出決定が行われ,同年3月29日に,京都市一般会計予算の正当な予算科目である(款)03文化市民費,(項)04人権文化費,(目)03同和対策費,(節)19負担金補助及び交付金から支出されていた。
 なお,183,103,695円の内訳は,高校生等を対象とする奨学金等の貸与を受けた者に対するもの1,761人分95,916,700円,大学生を対象とする奨学金等の貸与を受けた者に対するもの708人分87,186,995円であった。この金額は当該年度に返還すべき奨学金等の額と同額であった。
 平成13年度の支給対象者は,昭和63年3月から平成13年3月までの間に奨学金等の支給の対象となる学校を卒業又は退学した者である。
(14) 支給要綱第2条に規定する「その属する世帯の所得,就労等の生活実態から貸与を受けた奨学金等を返還することが困難であると市長が認める」具体的な基準は定められておらず,また支給の決定に際し,援助金の支給の申請をした者(以下「支給申請者」という。)の属する世帯の所得状況や就労の状況を証する書類(以下「所得証明等」という。)は徴収されていなかった。
(15) 平成14年3月31日をもって,地対財特法の期限が到来し,市奨学金は廃止されたが,教育に関してはなお残された課題があるとの認識に基づき,就学奨励金については,所得基準,貸与金額を見直したうえで経過措置として平成14年度から5年間継続され,援助金についても継続されることとなった。
(16) 昭和57年3月以降の高校進学率(同和地区中学校卒業生の進路率。高等専門学校へ進学した者を含む。以下同じ。)及び大学進学率(高等学校卒業生奨学金等受給者の進路決定状況。短期大学へ進学した者を含む。以下同じ。)は次表のとおりである。
 2 文化市民局関係職員の説明
(1) 市においては,昭和26年の本市職員によるオールロマンス事件を契機として,部落差別の実態とそれを放置してきた行政責任を認識する中で,昭和27年に策定した運営要綱により,同和問題の解決を市政の最重点課題の一つに位置付け,関係部局を網羅した執行体制を確立し,これまで全庁一丸となって取り組んできた。
 教育に関する施策については,昭和40年8月に同和対策審議会から内閣総理大臣に提出された「同和地区に関する社会的及び経済的諸問題を解決するための基本的方策」についての答申(以下「同対審答申」という。)において,「市民的権利,自由とは,職業選択の自由,教育の機会均等を保障される権利,居住および移転の自由,結婚の自由などであり,これらの権利と自由が同和地区住民に対しては完全に保障されていないことが部落差別なのである」と述べられているように,就労が生活に,生活が教育に大きく影響しているとの基本認識の下に,教育の機会均等及び就職の機会均等の保障を図ることを同和問題を解決する上での最重要課題として,地区の実態を把握し,課題の解消に向けてその施策を展開してきた。
 その結果,小,中学校在校生の長期欠席や不就学については,大幅に改善されてきたが,昭和57年3月時点においても,高校進学率を見れば格差(全市92.0パーセント,同和地区85.0パーセント)があり,教育の機会均等の保障という点で課題があった。
(2) 教育基本法にも定められている教育の機会均等を保障していくための経済的支援として,昭和36年度に高等学校に在学する者を対象とした奨励資金給付を新設し,昭和38年度には高等学校以上の学校に在学する者を対象とすることとして,「京都市同和奨学資金給付」と名称変更を行ったほか,昭和41年度に「進学・就職支度金」,昭和45年度に「高等学校卒業者進学・就職支度金」,昭和48年度に「予備校生に対する奨学資金」,「小学校入学支度金」,「中学校入学支度金」,「大学卒業者就職支度金」等の制度を整備してきた。
 奨学金制度については,高校生等を対象としたものについては昭和41年度から,大学生を対象としたものについては昭和49年度から国庫補助の対象とされてきたが,国は,昭和57年度の「地域改善対策特別措置法」(以下「地対法」という。)の施行を契機に国庫補助の対象を給付制度から貸与制度に変更した。このことは,オールロマンス事件を契機に実施してきた市の施策,とりわけ国に先進して制度化した奨学金制度の後退を意味し,同和問題の解決にとって重要な課題である教育の機会均等及び就職の機会均等の保障の実現から遠ざかる危険性をはらむものであるとの認識のもと,国に対して「地域の生活実態を考慮して給付制度に戻すこと」を強く要望した。
 国庫補助との関係上,最終的に市の奨学金制度については貸与制度としたが,就学に必要な学資を援助し,勉学に専念することにより必要な知識を身に付け,将来の生活基盤の安定を図り,自ら同和問題の解決に積極的に寄与していく人材育成を目的とした奨学金制度の意義と役割を損なわないよう,条例に基づく返還免除措置と援助金制度を新たに設け,従来の内容から後退しないようにした。
(3) 高校等又は大学へ進学を希望する者が増え,このことによって多様な進路選択が可能となっていることもあって,若年層を中心に就職面で幅広い分野への進出が見られるようになったことは,昭和45年度から7年ごとに実施されている京都市同和地区住民生活実態調査事業(以下「実態調査」という。)の結果にも表れている。これは低所得世帯に属し,不安定な就労等の生活実態から就学が困難であると認められて奨学金の貸与を受けた者の奨学金返済の将来的な不安が解消された結果によるものであると考えられ,こうした点から,返還免除措置又は援助金制度が教育の機会均等及び就職の機会均等の保障,それによる自立意識の高揚と生活の安定に果たしてきた役割と成果は大変大きいものであったと言える。
 また,援助金制度があることにより,進学に際して必要な学資を安心して借りることができるということで,本人,家族とも将来に向けて意欲を持つことができるため,地区住民からも歓迎されている。
(4) 援助金制度の対象者は,同和地区の低所得世帯に属し,不安定な就労等の生活実態から就学が困難であると認められ,奨学金等の貸与を受けた者である。
 昭和55年国勢調査による家計収入別での生活保護受給率は,市全体が1.4パーセントであるのに対し,昭和59年度の実態調査の結果によると同和地区は17.1パーセントであった。
 また,国が昭和57年度に奨学金に係る国庫補助の対象を給付制度から貸与制度に変更した際に,国が提示した返還免除に関する留意事項においては,「返還が著しく困難であると認められる」のは,生活保護を受けているとき,市民税所得割が非課税であるとき,生活保護を受けているときに準じる程度に困窮しているとき(市においては,所得が生活保護基準の1.5倍以下であるときとして運用)に該当する場合などであるとされたが,当時の隣保館職員が昭和58年度に大学に在学している大学奨学金の給付又は市奨学金の貸与を受けている者が属する世帯について調査したところ,そのほとんどが「返還が著しく困難であると認められる」場合に該当していた。
 これらのことから,援助金制度創設時の同和地区の生活基盤はぜい弱な状態であったと言える。
 なお,平成12年度の実態調査の中間報告においても,家計収入別での生活保護受給率は,市全体が3.1パーセントに対し,同和地区は17.9パーセントであり,生活基盤のぜい弱さは依然として解消されていないことがうかがえる。
(5) このような実態を踏まえ,制度創設時には「その属する世帯の所得,就労等の生活実態から貸与を受けた奨学金等を返還することが困難である」と認める基準を定めず,援助金の申請の際には,所得証明等の提出も求めなかった。
 平成13年度分についても,支給申請者は,奨学金等貸与申請時にその属する世帯全員の所得証明の提出を求め,それに基づき貸与を決定した者であることのほか,就学期間中,毎年度家庭状況報告書を提出させていること,奨学金等貸与時及び援助金申請時に当時の隣保館職員が本人又は家族と面談し,主たる生計維持者の就労状況など家庭状況の把握に努めていること,更には同和地区の生活基盤がなおぜい弱であるという実態から,従来どおり支給申請者を支給要綱第2条第1項にある「その属する世帯の所得,就労等の生活実態から貸与を受けた奨学金等を返還することが困難である」者と読み替えて適用した。
 20年にわたる奨学金等の返還期間中,定期的な所得申告を義務付けていないのは,支給要綱に,返還期間中の書類の提出について具体的な定めがなく,また現在においてもなお,結婚や就職などに際し身元調査が行われている等の課題があることを考慮すると,社会で自立している被貸与者本人の社会的立場に様々な影響を与えるおそれがあり,適当ではないと考えているためである。
(6) 奨学金等については,貸与申請時及び貸与の機会並びにコミュニティセンター(旧隣保館)が発行する住民向けのお知らせなどを利用して,制度の趣旨や返還の必要があることの周知に努めており,援助金についても支給申請時に,窓口であるコミュニティセンター(旧隣保館)の職員から,その趣旨を十分に説明して,自立意識の阻害につながらないように努めてきたところである。
(7) 平成5年7月のあり方に基づき同和対策事業の見直しを図ってきたところである。同和問題を解決する上での最重要課題の一つである教育の機会均等を保障していくための事業の一つである奨学金等についても,画一的,一律的な制度の運用は,かえって同和地区住民の自立を妨げ,奨学金等の本来の趣旨に反するものであるため,平成7年3月から,日本育英会が定める基準をもとに算定した市独自の所得基準を設けるなど段階的に改定を行った。更に平成8年11月の市同懇意見具申を踏まえて,見直し,改革に取り組み,平成10年度から「高等学校卒業者進学・就職支度金」,「予備校生に対する奨学資金」,「小学校入学支度金」,「中学校入学支度金」,「大学卒業者就職支度金」等を廃止してきた。
 市では地対財特法の期限である平成14年3月31日をもって,特別施策としての同和対策事業は終結した。
(8) 援助金についても,平成14年3月31日の廃止に向け検討を行ってきたところである。
 しかし,終結とその後の取組にあるように,高校進学率が全市とほぼ格差のない状況となるなど,過去のおしなべて低位な実態は大きく改善されてきたものの,高校進学の内容,高校中退率及び大学進学率の格差などの課題が残されおり,また,一人親家庭,経済的支援を受けざるを得ない家庭等,厳しい状況に置かれている家庭もあり,児童,生徒の教育に大きく影響しているという実態もある。
 これらのことを踏まえ,市奨学金は廃止したが,就学奨励金については,経過措置として,所得基準,貸与額を引き下げたうえで,5年間継続することとした。
 援助金についても,厳しい財政状況下ではあるが,制度創設の経過やその果たしてきた役割に鑑み,平成14年度以降も継続することとした。
 なお,事務の在り方など制度の運用については,改善が必要であると認識しており,具体的な案を考えていきたい。
 3 監査委員の判断及び結論
(1) 法第232条の2では,普通地方公共団体は,公益上必要がある場合に限り,寄附又は補助を行うことができる旨,規定している。しかし,法第232条の2は,その内容を具体的に定めていないため,普通地方公共団体は,寄附又は補助を行おうとするときは,同条の規定の趣旨に従って,当該寄附又は補助を行うことが住民にもたらすであろう利益,程度等諸般の事情を勘案して,客観的に公益上必要であるかどうかを判断することになる。そして,その判断に著しい不公正又は違法が伴わない限り,これは尊重されるべきものである。
 本件援助金も,普通地方公共団体である市が行う補助であるから,法第232条の2の規定に基づき,その趣旨に従って支出されなければならないものである。
(2) 市においては,昭和26年のオールロマンス事件を契機として,昭和27年に策定された運営要綱により,同和問題の解決が市政の最重要課題の一つに位置付けられ,同和地区の住環境と同和地区住民の生活実態の改善に本格的に取り組まれるようになった。
 また,国においても,昭和40年の同対審答申において,「同和問題は人類普遍の原理である人間の自由と平等に関する問題であり,日本国憲法によって保障された基本的人権にかかわる課題である」ことが明確にされるとともに「その早急な解決こそ国の責務であり,同時に国民的課題である」と位置付けられた。これを受けて昭和44年に制定された同和対策事業特別措置法(以下「特別措置法」という。)は,第1条に規定する対象地域住民の社会的経済的地位の向上を不当に阻む諸要因を解消することを同和対策事業の目標として掲げ,この目標を達成するため,国は歴史的社会的理由により生活環境等の安定向上が阻害されている地域の生活環境の改善,社会福祉及び公衆衛生の向上及び増進,農林漁業の振興,中小企業の振興,住民の雇用の促進及び職業の安定,住民に対する学校教育及び社会教育の充実,住民に対する人権擁護活動の強化を図るための措置を講じること並びにその他目標を達成するために必要な措置を講じなければならないとし,地方公共団体は,国に準じて必要な措置を講じなければならないことを規定した。また特別措置法の期限後も地対法及び地対財特法の二つの特別法が制定され,必要な措置が講じられてきた。
 このように,同和対策事業は,同和問題解決の重要性と緊急性から,一般施策を補完する特別施策として実施されてきたものである。昭和59年度から実施されてきた本件援助金の支給は,同和地区住民の教育の機会均等の保障及びそのことによる就職の機会均等を保障することを目的とした市における同和対策事業の一つであって,特別措置法,地対法及び地対財特法の趣旨に沿うものであり,普通地方公共団体の果たすべき公益目的の一つであるということができる。
(3) 支給要綱は,「(前略)奨学金等の貸与を受けた者のうち,その属する世帯の所得,就労等の生活実態から貸与を受けた奨学金等を返還することが困難であると市長が認めた者に対し,支給する」と規定している。
 一方,平成13年度の援助金の支給の対象となっている者(以下「支給対象者」という。)は,全員当該年度に奨学金等を返還しなければならない者であり,支給の申請に際し所得証明等の提出はされていなかった。
 しかし,支給申請者は,当然のことながら奨学金等の貸与を受けた者に限定されており,奨学金等の貸与に当たっては,所得証明等に基づき,世帯の所得,就労等の生活実態から就学が困難であると認められた者である。また,在学期間中,当時の隣保館の職員が家庭状況報告書及び奨学金等の貸与時の面接により,その者の属する家庭の状況を把握しており,在学期間中,奨学金等の貸与が継続されていた。更に,援助金の支給申請を受け付ける際にも当時の隣保館の職員が家庭状況の確認をしている。
 こうしたことを踏まえて,市長は支給対象者の決定を行っている。
 これらの事務の実態を考慮すれば,支給対象者の決定に当たっては,十分とは言えないまでも,貸与を受けた奨学金等の返済が困難であるとの認定は行われていたと言うことができる。
(4) 支給対象者について,奨学金等の返済期間中,所得証明等の提出を求めていない。
 この点について,支給要綱は特段の規定を置いていないことから,奨学金等の返済期間中,支給対象者が貸与を受けた奨学金等の返還が困難であるという状況にあることをどのような方法で確認するかは,市長の判断するところである。
 また,援助金制度が創設される前年度に,当時の隣保館職員によって行われた調査で明らかになったように,大学奨学金の給付又は市奨学金の貸与を受けた者の属する世帯のほとんどが,国が「返還が著しく困難であると認める」場合に該当していたこと,教育の機会均等及び就職の機会均等の保障を図ることを同和問題の解決を図る上での重要課題として施策が展開されていたこと,そのような状況のもと,援助金がそれまで「給付」であった奨学金が「貸与」に制度変更された際に従来と実質的に変わらない効果を維持するために設けられたという経過及び教育に関しては,なお経済的支援を必要とする課題が残されている旨が終結とその後の取組に述べられていることを考慮すれば,奨学金等の貸与を受けた者はその返還についても困難であると見なす運用は,的確な運用とは言えないものの,著しい裁量権の逸脱があるとまでは言えない。
 加えて,援助金が奨学金等とともに,同和地区の子弟が高校等,大学に進学しようとする場合において,学資面での不安を払拭することに大きな役割を果たし,そのことが高校進学率及び大学進学率の向上,多様な進路の選択,就職面での広い分野への進出という成果を挙げてきたことは否定できない。
(5) 援助金の支出は,京都市一般会計予算に計上された予算から,適切な支出手続を経て,支出されていた。
(6) 以上のような事情から,制度の運用面で適切とは言えない部分があるものの,平成13年度の援助金の支出については,おおむね法第232条の2の規定の趣旨に沿ったものであり,違法又は不当なものであるとするに足りる事由は認められなかった。
 よって,本件請求は棄却する。
付記
 本件請求についての監査委員の判断は以上のとおりであるが,監査委員の合議により,市長に対し,次のとおり,意見を提出するので申し添える。
 援助金制度においては,実質的に奨学金等の貸与の対象者を支給対象者とみなす運用が行われてきたところである。
 しかし,援助金制度と奨学金等の制度は,それぞれ独立した制度である。
 したがって,制度のより一層の公平性,平等性の確保の観点からは,客観的な証明に基づき,支給の申請のあった一人一人について,適時に支給要件を満たすか否かを判断していくことが望ましく,そのことが支給要綱の規定の趣旨にもより合致するものであると考えるので,事務の改善について,検討を行われたい。
 法第232条の2の規定に基づく寄附又は補助は,法第232条第1項に規定する経費に属しないものであり,その必要性及び効果等については慎重な検討を要するものであることから,寄附又は補助の公益上の必要性の判断に際しては当該地方公共団体の財政状況も考慮しなければならないという考え方もある。
 また,本来恩恵的,奨励的性質の奨励金の支出を永く将来に亘って義務付けることは,諸情勢の変化ないし交付者側の財政的事情からみて必ずしも相当ではなく,財政状態や政治的社会的情勢の変動に応じて将来の改廃が予測される性質のもので永久不変の制度として存在するものでもないのであって,地方公共団体は政策的考慮に基づき奨励金制度そのものを廃止すると否との自由を有するものであるとする旨の判例(札幌高裁昭和44年4月17日判決)もある。
 市の財政状況は,平成13年10月の「本市財政の非常事態に対する緊急対策の基本方針」に記載されているように,極めて厳しい状況にある。
 しかし,援助金の持つ意義及びその果たしてきた役割を考慮すると,厳しい財政状況下においても,真に必要な者に対しては,必要な援助を継続していくことが重要である。そのためには,支給対象者の実態に合った支給となるようにすることが大切であるので,運用面での改善に向け,前述の考え方や判例も考慮しながら,検討を行われたい。

 

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監査公表第475号
 平成13年4月18日監査公表第447号において公表した平成12年度包括外部監査の結果に基づき講じた措置について,地方自治法第252条の38第6項の規定により,京都市長から通知があったので,次のとおり公表します。
  平成14年11月21日
京都市監査委員 高橋 泰一朗
同      宮本 徹
同     下薗 俊喜
同      奥谷 晟



平成12年度包括外部監査結果に対する措置状況
市税の賦課に関する事務
1 コンピュータ処理
(理財局−1)
監査の結果
 <監査意見>
 税務事務のコンピュータ処理の一部を外部に委託しているが,委託先において,個人情報をはじめとする各種データが今後も適正に取扱われるよう,委託契約書の内容の点検や立ち入り検査の頻度を高めるなどの実効性を高めるための方策を講じられるよう要望する。
 


講じた措置

 課税資料の電算処理を業者委託する場合,従来から「電子計算機による事務処理等の委託契約に係る共通仕様書」の遵守を契約に明記し,秘密の保持,目的外使用の禁止,複写,複製等の禁止,データ等の廃棄をうたっているところであるが,再度各業者に個人情報の保護を口頭で周知徹底するとともに,市税の収納データを磁気テープに収録する再委託業者に対しても入力データ作成等業務を行うに当たっての遵守事項を書面で周知徹底した。
 また,納税通知書の裁断,編綴業者に対する立ち入り検査についても,検査基準を明確化し検査頻度を増やした。
 


2 納期内納付  前納市税報奨金制度
(理財局−2)
監査の結果
<監査意見>
 この制度は,資金に余裕のある者しか利用できない制度であり,給与所得者の特別徴収に係る個人市民税については,適用がないことなどから公平性の観点からも問題がある。また,市民の納税意識も向上し,制度創設時の目的も達成されていると考えられるため,廃止を含めた検討を行う必要がある。
 なお,制度を廃止する場合は,市民への周知はもとより,市税に対する市民の一層の理解を得る取組を行うことが必要である。
 また,平成9年度から11年度の徴収率の水準はそれ以前に比して向上しているが,平成15年度に市税徴収率96%を目指した取組に影響が出ないように悪質な滞納者に対しては差押えなどの厳正な滞納処分を積極的に行い,さらに納期内納付の促進を図るために,口座振替の勧奨に取り組む必要がある。
 


講じた措置

 前納市税報奨金制度は,平成13年度末をもって廃止した。
 なお,制度廃止に伴う市民等への周知については,以下のとおり実施した。
 市民しんぶん(平成14年1月1日号)に制度廃止の記事を掲載
 口座振替の全期前納利用者への通知文の送付
 口座振替利用者で,納付方法について全期前納を選択している納税者に,制度廃止の通知及び一括納付継続の意思確認のために,往復はがきを送付。(引き続き一括納付を希望する場合のみ,返信用はがきで連絡。)
 納税通知書及び同封の「税のあらまし」に廃止通知文を掲載
 口座振替依頼書及びリーフレットへの制度廃止の文言を掲載
 金融機関等へ,口座振替新規申込者に対する制度廃止の周知について協力要請
 また,制度の廃止に併せて,納期内納付率の向上を図るため,当初納税通知書に口座振替依頼書付リーフレットを同封し,口座振替利用者を拡大する取組を実施した。
 

(監査事務局第一課)

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